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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)4823号 判決 1985年8月14日

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告ら

被告は原告らに対し、それぞれ金四四万円及びこれに対する昭和五九年六月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決及び仮執行の宣言

2  被告

主文と同旨の判決

二  原告らの請求原因

1  原告らは昭和五九年六月三日に「関西新空港反対全国総決起集会」(以下「本件集会」という。)を開催することを企画し、その会場として同日午前九時から午後四時三〇分まで市立泉佐野市民会館(以下「本件会館」という。)ホールを使用すべく、原告国賀が同年四月二日泉佐野市長に対し、市立泉佐野市民会館条例(以下「本件条例」という。)六条に基づき、使用団体名を「全関西実行委員会」として本件会館の使用許可申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、同市長は同月二三日本件条例七条一号(公の秩序をみだすおそれがある場合)及び三号(その他会館の管理上支障があると認められる場合)に該当するとの理由で本件申請を不許可とする旨の処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。

2  しかしながら、本件不許可処分は次のとおり違法な処分である。

(一)  本件会館は住民の利用に供せられる公の施設であるが、集会の自由は表現の自由の実現のため憲法二一条により保障された民主主義の基礎をなす基本的な人権であるから、公の施設の利用条件を定めるにあたっても最大限に尊重しなければならないのであって、これを制限するにはその内容が明確で、かつ、必要最小限度の制限に止めることが必要であるというべきところ、本件条例は前記のとおり本件会館の利用につき許可制を採用したうえ、極めて抽象的・包括的な許可基準を定めているにすぎず、しかも右基準のうちには必ずしも会館の機能を発揮させるために必要とはいえないものも含まれているから、集会の自由を不当に制限することになり、いわゆる「漠然性による無効」の理論により違憲の条例というべきである。なお、本件条例のように抽象的・包括的な許可基準による許可制を採用することは、原告らが本訴に先立ち提起した本件不許可処分の取消請求事件(当庁昭和五九年(行ウ)第三九号)及び執行停止申立事件(当庁同年(行ク)第四号)がいずれも訴の利益がなく、不適法であるとして却下され、金銭賠償によってしか償われない結果となったように、集会の自由を事実上全く奪ってしまう点からも違憲である。

また、本件条例は地方自治法二四四条二、三項により認められた住民の公の施設についての利用権を不当に制限することになり、違法である。

よって、このような違憲、違法な本件条例に基づきなされた本件不許可処分は違法である。

(二)  仮に本件条例が違憲、違法でないとしても、本件不許可処分は、本件条例七条一号、三号のいずれの場合にも該当しないにもかかわらず、既成政党の統制を受けないで関西新空港に反対する団体には本件会館を使用させないという差別的取扱いをなしたもので、本件条例七条、地方自治法二四四条二、三項、憲法二一条、一九条、一四条に違反する違憲、違法な処分である。

この点につき被告は、本件集会には不特定多数の中核派の参加が予定されているところ、同派はいわゆる過激派集団であり、また他の団体と闘争関係にもあるため、本件集会に他の対立団体グループが介入し、本件会館内のみならず会館付近一帯が大混乱に陥るおそれがあり、付近住民の生命・身体・財産に重大な影響を及ぼす結果を招来する旨主張しているが、どのような思想、信条を持つ者に対しても集会の自由は保障されるべきであり、中核派が本件集会に参加するからといって不許可とすることは許されない。また、本件集会は主催者の統制下で行われる屋内集会であって、被告主張のような会館内や会館周辺が混乱するおそれは全くなく、抽象的に混乱が生ずるおそれがあるとの危惧感のみを理由に不許可とすることは違法である。現に、昭和五七、五八年にいずれも大阪市内の扇町公園で開催された関西新空港反対総決起集会や昭和五七年一〇月二四日に大阪城公園で開催された反核集会(中核派と対立していると目されるグループも参加)には中核派も参加したが、混乱が生じたことは一切ない。

なお、本件申請についての交渉の際に原告森田、同国賀が被告職員から説明された不許可の理由は、五年前に本件会館ホールで開催された関西新空港反対集会において混乱が生じたこと及び昭和五八年七月一日中之島中央公会堂で開催された集会において混乱があったことであるにすぎず、被告の右主張とは異なっており、このことからも本件処分が合理的な根拠なくして行われたことが明らかである。

3  泉佐野市長は本件申請に対し、これを不許可とする正当な事由がないことを知りながら、若しくは右事由の有無につき何ら検討することなく前記のとおり違憲、違法な本件不許可処分をなしたものであるから、被告は国家賠償法一条一項に基づき、同市長の違法行為により原告らが蒙った損害を賠償する責任がある。

4  原告らは本件不許可処分により次のとおりの損害を蒙った。

(一)  原告らは本件不許可処分を受けたので、本件集会を泉佐野市内野出町の海浜において開催せざるをえず、そのため(1)右会場の清掃費一〇万円、(2)右会場に設置した移動トイレの賃借費二〇万円、(3)協賛団体の三里塚芝山連合空港反対同盟等に会場変更の経過報告者を派遣した交通費一〇万円、(4)会場変更についての情宣費一〇万円を支払ったほか、本訴提起のための弁護士費用四八万円の支払を約したので、合計九八万円(各自一四万円)の損害を蒙った。

(二)  原告らは本件不許可処分により、公の秩序を乱したり、会館の管理上支障をきたすような団体の代表者であるかのような印象を一般に与え、名誉・信用を著しく傷つけられたばかりでなく、他の会場確保も困難となり、集会直前まで会場確保に奔走しなければならず、そのため集会の情宣活動にも重大な支障が生じた。さらに、ようやく確保できた会場は前記の海浜であって、極めて交通の便が悪く、整備もされていず、仮設舞台を設置しなければならないという劣悪な条件であったため、本件会館で開催したなら得られたであろう成功を得ることができず、また天候の心配等の心労も重なったのであって、以上の原告らの蒙った精神的損害を評価すると、各自三〇万円を下らない。

4  よって、原告らは被告に対し、それぞれ損害賠償として金四四万円及びこれに対する損害発生の日の後である昭和五九年六月四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1のうち、原告国賀が昭和五九年四月二日泉佐野市長に対し、本件条例に基づき、使用団体名を「全関西実行委員会」として、同年六月三日午前九時から午後四時三〇分まで本件集会のため本件会館ホールの使用許可を受けるべく本件申請をしたのに対し、同市長が同年四月二三日、本件条例七条一号及び三号に該当するとの理由で本件不許可処分をしたことは認めるが、その余の事実は争う。同2、3の事実は争う。同4の事実は知らない。

2  本件条例は合憲かつ適法である。

すなわち、集会の自由が基本的人権として最大限に尊重されねばならないことはいうまでもないが、右自由は無制限に行使しうるものではなく、特に集会が公の施設を利用して行われる場合には、当該施設の管理主体がその管理のため定めた利用条件に従い、その規制に服することもやむをえないというべきである。そして、本件条例は、本件会館の設置目的を達成するために必要な維持、管理、利用関係の調整等を図るべく、その利用につき許可制を採用するとともに、一定の不許可基準を設けて不許可としうる場合を制限したもので、右基準は相当であるから、憲法の保障する集会の自由及び地方自治法に規定する公の施設に対する住民の利用権を何ら不当に制限するものではない。

3  泉佐野市長は本件申請につき種々の検討を加えた結果、次のような事情を総合的に考慮して、本件条例七条一号、三号に該当すると判断して本件不許可処分をしたものであるから、右処分は適法である。

(一)  本件会館は、市民の文化、教養の向上を図り、あわせて集会等の用に供する目的で設置されたもので、南海電鉄泉佐野駅前ターミナルの一角に位置し、付近は道路を隔てて約二五〇店舗の商店街が密集し、市内最大の繁華街となっている。

(二)  本件会館ホールの収容定員は八一六名(補助席を含めても一〇二八名)であり、それ以上の入場は消防法等から見ても違法使用となるところ、本件集会は、本件申請書に記載の集会予定人員は三〇〇名にすぎないが、宣伝ビラ等では一〇〇〇名(前記執行停止申立事件の申立書にも予定参加人員一〇〇〇名程度と記載されている。)、新聞報道では二〇〇〇名の参加を目標としていたのであって、規模内容、目的ともに不明確というほかなかった。

(三)  原告国賀はいわゆる中核派(全学連反戦青年委員会)と行動を共にする活動家であり、本件集会にも不特定多数の中核派の参加が当然に予定されていたところ、この中核派は、三里塚闘争から関西新空港反対闘争へと展開する反対闘争方針を打ち出し、デモ行進、集会等の活動を行う中で種々の社会的混乱を惹起しており、特に昭和五九年四月四日大阪府庁及び大阪科学技術センター等で起こった連続爆破事件につき自ら犯行声明を各新聞社に出しているもので、自らの思想、信条のためには全く手段を選ばず、法治国家に敵対するいわゆる過激派集団である。なお、原告国賀も、昭和五六年に岸和田市において開催された関西新空港問題の集会で混乱を惹起したことがある。

(四)  さらに、中核派は他の過激派集団と左翼運動の主導権をめぐって従来から対立抗争中であり、昭和五八年七月一日中之島中央公会堂においていわゆる第四インターが主催した三里塚闘争関西集会の際、中核派が実力行使に出て、同公会堂付近一帯が大混乱に陥ったことがある。

(五)  したがって、本件集会においても他の対立グループが介入し、本件会館のみならず、同会館付近一帯が大混乱に陥り、付近住民の生命、身体、財産に重大な影響を及ぼすおそれが十分にあった。なお、このような危険性を事前に察知し、憂慮した地元住民等から、泉佐野市長に対し、暴力行為防止と排除のため極左集団に本件会館を貸さないようにとの要望書等が提出されていた。

4  なお、原告は、本件不許可処分は既成政党の統制を受けないで関西新空港に反対する団体には本件会館を使用させないという差別的取扱いに基づくものであると主張しているが、原告国賀による「泉佐野新空港に反対する会」の名称での本件会館小会議室の利用申込みに対しては、従来から何度もこれを許可しているのであって、本件会館の使用許可につき関西新空港に反対する団体であるからといって差別的取扱いをしていないことは明らかである。

四  証拠(省略)

理由

一  原告国賀が昭和五九年四月二日泉佐野市長に対し、本件条例六条に基づき、使用団体名を「全関西実行委員会」として、同年六月三日午前九時から午後四時三〇分まで本件集会のため本件会館ホールの使用許可を受けるべく本件申請をし、同市長がこれに対し同年四月二三日、本件条例七条一号及び三号に該当するとの理由で本件不許可処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二  右事実に、成立に争いのない甲第三、第二八、乙第三、第七、第一三号証、原告森田恒一本人尋問の結果により成立を認めうる甲第四ないし第九号証、第一二、一三号証、第一五ないし第二二号証、証人松田栄一の証言により成立を認めうる乙第二号証の一ないし四、第五、六号証、第八ないし第一二号証、第一四号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第四、第一五号証、右証言により被告主張のとおりの写真であると認められる検乙第一ないし第九号証、右証言、右本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分を除く。)、弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

1  原告森田(日本キリスト教団久米田教会牧師)、原告戸次(真宗大谷派僧侶)のほか、原告中島が世話人である「姫路いのちを守る会」、原告国賀が運営委員である「泉佐野・新空港に反対する会」、原告永井が代表者である「淡路国際空港淡路町反対期成同盟」、原告加辺が代表者である「関西新空港建設反対明石住民の会」、原告山本が代表者である「新関西国際空港建設反対東灘区住民の会」、及び右「泉佐野・新空港に反対する会」以下の四団体が構成員となり、原告永井が代表者である「全関西実行委員会」(「三里塚決戦勝利百万人動員全関西実行委員会」)の六団体は、関西新空港の建設に反対し、昭和五七、五八年にも全国的規模の反対集会を大阪市内の扇町公園で平穏に開催してきたもので、昭和五八年の集会には一一〇〇名を超える参加があったが、昭和五九年に至り、関西新空港につきいよいよ新会社が発足し、同年中にも工事に着手するような情勢になってきたため、同空港建設予定地の地元である泉佐野市において全国的規模の反対集会を開催することが必要であるとして、原告森田を委員長として本件集会の実行委員会を組織し、同年六月三日に本件会館ホールで本件集会を開催することを企画し、同委員会の事務局長として事務全般を担当することとなった原告国賀において参加予定人員を三〇〇名として本件申請をした。

なお、右二名及び六団体は、関西新空港に反対するためこのほか個別に反対集会、学習会等を開催し、あるいはこれらに参加するなどの活動を行ってきたもので、そのうち「泉佐野・新空港に反対する会」は本件会館小会議室において過去何度も講演、学習会等を開催し、また、「全関西実行委員会」は、新東京国際空港二期工事阻止の趣旨もあわせた反対集会を昭和五二年ころから年二回大阪市内の中之島中央公会堂等で平穏に開催してきた。もっとも、昭和五六年八月に岸和田市市民会館で関西新空港の説明会が開催された際、出席した原告国賀は壇上を占拠するなどして混乱を惹起したことがある。

2  いわゆる中核派(全学連反戦青年委員会)は、周知のごとく従来からいわゆる革マル派と内ゲバ殺人事件を起こすなど左翼運動の主導権を巡って他のグループと対立抗争を続けてきただけでなく、三里塚闘争、関西新空港反対闘争の名のもとに、新東京国際空港二期工事着工及び関西新空港建設に反対し、これらを実力阻止する闘争方針を打ち出し、デモ行進、集会等の合法的活動にとどまらず、違法な実力行使を行ってきており、例えば昭和五九年三月一日東京日本橋の新東京国際空港公団本部ビルに付近の高速道路から火炎放射器様のもので火を噴きつけた事件につき、また同年四月四日大阪市内の大阪科学技術センター及び大阪府庁で時限発火装置による連続爆発、放火があり、九名の負傷者を出した事件につき自ら犯行声明を出している。なお、昭和五八年七月一日大阪市内の中之島中央公会堂でいわゆる第四インターの主催する三里塚闘争関西集会が開催された際、中核派が会場に乱入し、負傷者や逮捕者二八名を出した事件も起こっている。

この中核派は、原告国賀が同派と活動をともにする活動家であることなどから、全関西実行委員会とも密接な関係があると考えられ、従前から本件集会と同旨の昭和五七、五八年の集会や全関西実行委員会主催の集会に参加してきており、本件集会にも当然に参加を予定していたもので、同派が関西新空港反対闘争の一環として行った昭和五九年四月二二日の泉佐野市臨海緑地から同市駅前へのデモ行進においては、「六・三大阪現地全国闘争へ!」等と記載された横断幕が掲げられ、そのほか同派のビラにも本件集会への参加を呼びかける記載がなされていた(なお、右デモ行進や右ビラの配付活動には原告国賀も参加していた。)。

3  本件会館は南海電鉄泉佐野駅前ターミナルの一角に位置し、付近は道路を隔てて約二五〇店舗の商店街があり、市大最大の繁華街を形成している。

本件会館は、泉佐野市民の文化、教養の向上を図り、あわせて集会等の用に供する目的で設置されたもので、本件条例に基づき管理運営されているが、本件会館の使用については本件条例六条により泉佐野市長の使用許可を要することとされ、七条により市長が同条一号ないし三号、即ち(一)公の秩序をみだすおそれがある場合、(二)建物、設備等を破損又は汚損するおそれがある場合、(三)その他会館の管理上支障があると認められる場合のいずれかに該当すると認めた場合には不許可とすべき旨規定されている。右使用許否の決定は泉佐野市事務処理規程に基づき、政治団体による集会や社会的な影響のある集会等特別の場合には泉佐野市総務部長が、その余の場合には本件会館館長が専決することとされており、本件集会のような関西新空港反対集会は右特別の場合に該当するものとして総務部長が専決する取扱いであった。なお、本件会館ホールは定員八一六名(補助席を含めても一〇二八名)であり、定員を超える集会等については、安全管理の面等から使用を許可しない方針がとられていた。

4  本件申請を受理した本件会館館長は、総務部長の専決事項であるため同部長の決裁を仰いだところ、同部長は、種々の調査結果及び昭和五九年四月二二日に中核派が行ったデモ行進の状況等に基づき、第一に本件集会の主体となると判断される中核派は、前記の四月四日の連続爆破事件を起こすなどの過激な活動組織であって、泉佐野商業連合会等各種団体からいわゆる極左暴力集団に対しては本件会館を使用させないようにされたい旨の嘆願書、要望書も提出されており、このような組織に本件会館を使用させことは公共の福祉に反するものであること、第二に本件申請上の集会予定人員は三〇〇名となっているが、本件集会は全国規模の集会であって、右予定人員の信ぴょう性は疑わしく、本件会館ホールの定員との関係で問題があること、第三に原告国賀は前記のとおり昭和五六年に集会で混乱を惹起しており、また中核派は従来から他の団体と対立抗争中で、昭和五八年には他の団体の主催する集会へ乱入する事件を起こしているという状況からみて本件集会においても対立団体が介入するなどして、本件会館のみならず同会館付近一帯が大混乱に陥るおそれがあること、これらの事実から本件は本件条例七条一号及び三号に該当すると判断して、本件不許可処分をなした。なお、原告国賀、同森田は本件申請につき館長との交渉過程で許可にならない旨聞かされていたが、館長は不許可の理由の中には原告国賀に関する事由も含まれていたので、理由をすべて明示することはしなかった。

5  原告らは、本件会館ホールの使用が許可されなかったため、会場を泉佐野市野出町の海浜に変更して本件集会を開催したところ、同所は交通の便が悪く、一般市民の参加が減少したと考えられるにもかかわらず、約一〇〇〇名の参加があり、かつ、平穏に行われた。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告森田恒一の供述は信用できない。

三  そこで、右認定事実に基づき本件不許可処分が適法であるか否かについて判断する。

1  まず、原告らは、本件条例は集会の自由並びに地方自治法二四四条二、三項の保障する住民の公の施設についての利用権を不当に侵害するものであり、このような条例の下では金銭賠償による救済しか残らないため、事実上集会の自由を全く奪う結果となるから、違憲、違法な条例である旨主張する。

もとより、集会の自由は表現の自由を確保するという民主主義社会存立の基盤をなす最も重要な基本的人権の一つであり、地方自治の場においても最大限に尊重されねばならないことはいうまでもない。しかしながら、地方公共団体が集会等の用に供する目的で設置した公の施設については、設置者においてその設置目的を達成するため施設の維持、管理、利用関係の調整等、運営それ自体に本来内在する管理作用を有し、右管理権の行使として施設の利用条件を定める必要があるから、公の施設で集会を行おうとする者は、右利用条件が合理的なものである限りこれに服さなければならないのであり、集会の自由を理由に当然に施設利用の利益を享受できるものではない。また、地方自治法二四四条二、三項も住民が公の施設を利用するにつき、地方公共団体は正当な理由のない限りこれを拒否できず、不当な差別的取扱いをしてはならない旨定めているのであって、無制限に住民の利用権を保障するものではない。

そして、本件条例は前記のとおり本件会館の利用を市長の許可にかからしめ、七条一ないし三号で不許可とすべき場合を規定しているのであるが、右許可制そのものは公共財産たる本件会館の管理の必要から採られたものであって何ら不合理なものではないし、右七条一ないし三号の規定は地方自治法二四四条二項にいう正当な理由を具体化したものと解されるところ、右規定の文言がある程度抽象的であるのは事柄の性質上やむをえないところであり、その内容も本件会館の前記設置目的、構造、管理の必要等に照らして不合理、不必要であるとはいえず、またその趣旨も必ずしも不明確であるとはいえないから、本件条例をもって直ちに違憲、違法ということはできないというべきであって、原告の右主張は採用できない。

2  次に、本件不許可処分の適否について判断する。

まず、本件条例七条一号にいう「公の秩序をみだすおそれがある場合」の、公の秩序をみだすとは人々の生命、身体、財産の安全を侵害することを意味し、同号は本件会館の使用によって直接右侵害行為が惹起されるおそれがある場合のみならず、右侵害行為を助長するおそれがある場合をも含むと解される。しかして、かかる場合に該当するか否かの判断は、集会の自由や住民の公の施設の利用権を不当に制限することのないよう厳格になされるべきことはいうまでもないが、本件においては、前記認定のとおり、中核派は関西新空港反対闘争等において、前記四月四日の連続爆破事件等人の生命、身体、財産を侵害する違法な実力行使を行ってきており、これを是認する闘争方針を打ち出しているところ、前記認定の中核派と原告国賀及び全関西実行委員会との関係、同原告及び同委員会の本件集会における地位、役割、本件集会の目的、同派の闘争方針及び本件集会への対応等を総合すると、同派は単に本件集会の一参加団体というにとどまらず、本件集会の主体をなすか、そうでないとしても重要な地位を占めるものということができ、したがって、このような組織に本件会館を使用させることは、中核派の関西新空港反対闘争に寄与し、右闘争に基づく生命、身体、財産の侵害行為を助長する結果となるおそれが多分にあるといわざるをえない。よって、本件は本件条例七条一号に該当するというべきである。

3  また、本件会館ホールの定員は補助席を含めても一〇二八名であり、定員を超える集会等については使用を許可しない取扱いであったこと、本件申請上本件集会の参加予定人員は三〇〇名とされていたが、本件集会の趣旨、目的、態様及び昭和五八年の同旨の集会には一一〇〇名を超える参加があったことは前記認定のとおりであり、さらに、原告らが本件不許可処分の執行停止申立事件(当庁昭和五九年(行ク)第四号)において、本件集会には約一〇〇〇名の参加が予定され、全関西実行委員会主催の集会にはこれまで一〇〇〇名から二〇〇〇名の参加があった旨主張していたことは当裁判所に顕著な事実であって、これらを総合すると、本件集会の参加人員は三〇〇名程度にとどまらず、本件会館ホールの定員をはるかに超える可能性が高く(このことは、泉佐野市野出町海浜で実施された本件集会に約一〇〇〇名の参加があったことからも裏付けられる。)、原告国賀においてもこれを十分予想していたと推認できる。このような事態が本件会館の管理に支障を来たすことは明らかであり、本件条例七条三号に該当するというべきである。

4  なお、被告は本件集会に中核派の対立団体が介入するなどして本件会館内外に大混乱が生ずるおそれがあることをも本件不許可処分の理由として主張しているが、被告がかかる危惧を抱いた根拠は、前記認定の原告国賀が昭和五六年に集会で混乱を惹起したこと、中核派が他の団体と対立抗争中であること、同派が昭和五八年に他の団体の主催する集会へ乱入する事件を起こしたことにあると考えられるところ、原告国賀や中核派自体が主催し、又は主体となる本件集会において自ら混乱を起こすことは考えられず、また、昭和五七、五八年の本件集会と同旨の集会や全関西実行委員会主催の集会(昭和五八年七月一日の事件以降にも開催されている。)がいずれも平穏に行われていることに照らすと、中核派と対立する団体が本件集会に介入して混乱を生ずるおそれが高いとは必ずしも認められないというべきであるから、この点に関する被告の主張は採用できない。

5  そうすると、本件条例七条一号及び三号に該当するとの理由でなされた本件不許可処分が違憲、違法であるとはいえない。

なお、原告らは、本件不許可処分は本件条例七条一号、三号のいずれにも該当しないにもかかわらず、既成政党の統制を受けないで関西新空港に反対する団体には本件会館を使用させないという差別的取扱いをなしたものである旨主張する。しかしながら、前記認定事実によっても、泉佐野市長が右のような団体に対し差別的取扱いをしていることを窺わせるような事情は何ら見当らず、かえって、原告国賀が運営委員である「泉佐野・新空港に反対する会」にも過去何度も本件会館小会議室を使用させるなどしており、さらに証人松田栄一の証言によれば、本件不許可処分後の昭和五九年五月二五日には関西新空港設置反対連絡協議会(参加人員約九〇〇名の講演会)に本件会館ホールを使用させたことが認められるのであって、以上からしても、原告らの右主張が採用できないことは明らかである。

四  よって、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

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